大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和43年(ワ)12703号 判決

原告 大古精機株式会社

右代表者代表取締役 大古関一

右訴訟代理人弁護士 大塚功男

被告 漆原不動産株式会社

右代表者代表取締役 漆原徳蔵

右訴訟代理人弁護士 磯崎良誉

同 鎌田俊正

同 磯崎千寿

主文

一  被告は、原告に対し、金一九六、五〇〇円及びこれに対する昭和四三年一一月二一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告に対し、別紙工事目録記載の工事をせよ。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを五分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

五  この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一原告の申立

一  被告は原告に対し、金二、六七四、四〇〇円及びこれに対する昭和四三年一一月二一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  主文第二項同旨。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに第一、三項につき仮執行の宣言を求める。

第二被告の申立

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

≪以下事実省略≫

理由

一  土地の所有関係

原告が被告から昭和三五年一二月二二日被告所有の(一)の土地を買い受けてその所有権を取得したこと、被告が昭和三七年五月二一日以前から(三)の土地を所有していることは当事者間に争いがない。

次に、原告が被告から右同日被告所有の(二)の土地を買い受ける契約をしたことは当事者間に争いがない。被告は、(二)の土地の売買契約の際代金完済時に所有権を移転する旨特約したと主張するが、≪証拠省略≫中右主張に沿う部分は、成立に争いのない甲第二号証、乙第三号証(以上の書証は右売買契約の際作成された売買契約書と念書であるが、他の特約については詳細に記載されているのに、被告主張の特約の記載はない。)と≪証拠省略≫に照らして措信し難く、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると、他に特段の主張、立証のない本件においては、原告は前記売買契約成立の日に(二)の土地の所有権を取得したものというべきである。

二  被告の不法行為

原告の主張第三項記載の事実は、地盤沈下の点を除いて当事者間に争いがない。

右争いのない事実と≪証拠省略≫によると、被告は昭和三七年七月ころ、本件断崖の土留工事を豊州建設に請負わせたこと、同会社は直ちに右工事に着手したが、間もなく、被告の工事計画が法令の規定に適合しない杜撰なものであったことなどが原因で、被告との間に工事内容や代金支払について紛争が生じたため、同年九月ころ右工事を中止したこと、そこで、被告は右工事請負契約を解除するとともに、豊州建設に対し工事現場からの立退きを要求したが、豊州建設は出来高に応じた代金の支払を受けてないから立退きに応じられないとして昭和四四年八月ころまで(三)の土地上に宿舎を建て、使用人久保孝道らを居住させていたこと、この間、被告は豊州建設の代表取締役坂本朝治と右久保孝道を不動産侵奪容疑で告訴したに止まり、それ以上積極的に右紛争を解決し工事を再開するための適切な手段を講じなかったこと、そのため、依然として土留工事は完成しないばかりか、豊州建設が中途までした土留工事も昭和四〇年ころに崩壊してしまっていること、これらの被告の行為はいずれも被告の代表取締役漆原徳蔵によって行われていたことが認められ(る。)≪証拠判断省略≫

右の事実によれば、被告の代表取締役漆原徳蔵は、被告の事業である前記宅地造成工事をなし、かつ、被告所有の(三)の土地を管理する者として、右工事後の本件断崖を放置すれば風雨の影響などによって(一)、(二)の土地が崩れ落ちることを容易に予見し得るものであるから、右工事後直ちに土留工事をして(一)、(二)の土地が崩れ落ちるのを未然に防止すべき注意義務があると認められるところ、同人は、右注意義務を怠り、右土留工事を豊州建設に請負わせたものの間もなく同会社との間に紛争を起して右工事を中止させ、その後も右紛争解決と工事再開のために何ら適切な手段を講ぜず、漫然とこれを放置し、その結果前記土崩を発生させたものと認められるから、同人には右土崩による(一)、(二)の土地の所有権侵害につき過失があるといわなければならない。

よって、被告は、民法七〇九条、四四条により、右所有権侵害によって原告に生じた損害を賠償すべきである。

三  損害

≪証拠省略≫によると、(一)、(二)の土地のうち本件境界沿いの長さ八一メートル幅約三メートルの部分は、原告が(一)の土地上にある後記の住宅と工場へ出入りするための私道として用いていたこと、右私道の南側に私道に沿って万年塀があり、さらにその南側数メートルの位置に、東側公道際から順次原告所有の工場二棟と住宅一棟が建てられていることが認められる。

原告は、本件不法行為により右住宅の浴室のタイルと浄化槽及び右工場の外壁と窓枠がいずれも破損し、右住宅と工場に歪みが生じ、その補修費相当の損害を被ったと主張する。しかしながら、≪証拠省略≫によれば、前記宅地造成工事後、右住宅の浴室のタイルの一部や浄化槽が破損し、原告がその補修費を支払ったこと、右工事の外壁のモルタルに一部亀裂が生じたこと、原告が建築業者に右工場の屋根瓦、床、窓枠、外壁などの補修の見積をさせたことは認められるが、それらの損傷が前認定の土崩あるいは被告のなした前記宅地造成工事に起因する地盤沈下に因って生じたことについては、≪証拠省略≫によっても認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。よって、右主張は採用できない。

次に、私道部分のコンクリート舗装の破損による損害の主張について判断する。≪証拠省略≫によると、前記土崩により、遅くとも昭和四三年六月ころまでの間に私道部分のコンクリート舗装が約三〇メートルにわたっって破損したこと、この補修のためには一九六、五〇〇円の費用を要することが認められるから、原告は右土崩により右と同額の損害を被ったものと認められる。

原告は、(一)、(二)の土地のうち本件境界沿いの四二坪が使用できなかったことによる損害をも主張する。私道部分の約半分が崩れ落ち、使用できなくなったことは前認定のとおりである。しかしながら、その使用不能により原告が具体的にどのような損害を被ったかを認定するに足りる証拠がないから結局右損害の主張は採用できない。

さらに、原告は、(二)の土地の売買代金支払のため銀行から八四〇、〇〇〇円を借入れ、その利息を支払ったことにより利息相当の損害を被ったと主張するが、原告が右借入をし、利息を支払うに至ったことと本件不法行為との間に因果関係のないことはその主張自体から明らかであるから、右は主張自体失当といわなければならない。

四  妨害予防

≪証拠省略≫によると、本件断崖のため現に(一)、(二)の土地につき所有権侵害の結果が発生しているのみならず、右断崖の位置、形状からして今後も引続き(一)、(二)の土地が崩れ落ち、右土地の所有権が侵害されるおそれがあるものと認められるから、右土地を所有している原告は、その所有権の効力として、現に右断崖のある(三)の土地を所有し、右妨害のおそれを発生させている被告に対し、その妨害の予防を請求することができる。

被告は、(三)の土地の占有を豊州建設及び訴外久保孝道に奪われ、いまだにその占有を回復し得ず、所有権の行使を妨げられている状態にあるから、現に妨害のおそれを生じさせている者とはいえず、妨害のおそれを除去すべき地位にもない旨主張するが、前記のとおり豊州建設と右久保孝道はいずれも昭和四四年八月ごろまでに(三)の土地を退去して、現に右土地を占有していないのであるから、同人らの占有継続を前提とする右主張は、その余の点について判断するまでもなく失当である。

そして、≪証拠省略≫によると、右妨害を予防するには、本件境界沿いに別紙工事目録記載のとおりの擁壁を設置するのが相当と認められる。

五  まとめ

そうすると、原告の本件請求は、被告に対し、不法行為による損害の賠償として一九六、五〇〇円とこれに対する不法行為の日の後である昭和四三年一一月二一日から支払済みに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、かつ、(一)、(二)の土地所有権に基づく妨害予防請求として主文第二項記載の工事をなすことを求める限度で理由があるから、これを認容し、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 村岡二郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例